おんまはみんなパッパカ走る

思い起こしばなし

母親という生き物と息子

 

俺が子供の頃の事。

学校では毎年1回は、クラスの集合写真を撮っていた。

 

当日、休んだら右上の片隅に、亡くなった人みたいな

写真を一人でハメコミされる、例のにアレ(?)だ。

 

その頃、俺の母は、その集合写真を毎回持って帰る度に

その写真を見て、クラスの女の子の全員を見定め

「可愛いのは、この子とこの子。」

・・・とやりだすのが常だった。

 

当時のあんな集合写真は、解像度も悪く

タイミング悪く目をつぶってしまう子もいるので

可愛い子が、ちゃんと可愛く写るとは限らない。

 

母は毎回、女の子の中から2~3人をピックアップするのだが

不思議な事に、何故だかその中にいつも

俺が心の中に秘めている、好きな子が入っているのだ。

 

その後、その選んだ2~3人を

「この子は優しそうでイイコ。この子は性格が悪い。

この子は・・・」

・・・と始まる。

 

そして、決まって俺の意中の子を指差して

「この子はアンタ(俺の事)には合わない。」

と言って終わる。

 

合うも合わないも、だいたいの場合、俺の好きな子は

クラスでも人気があり、俺にとっては「高嶺の花」だ。

こちらが合わないと言うのは、おこがましい限りである。

 

もし、母が合うと言ったところで、向こう側から

「アッカンベー」

・・・と言われるに決まっている。

 

俺の母は、俺をどれだけ高評価しているのだろう?(笑)

 

今思えば、母は写真を見ていたのではなく

俺の態度や、表情を観察していたのかもしれない。

 

これが息子の好きな子か!

・・・と感じ、わざと俺に悪く言っていたのかも。

 

 

小学校6年の頃。

母とテレビを見ていたら、榊原郁恵が出ていた。

 

母は

「この子、いつも明るくて元気で可愛いわね。」

・・・と言った。

 

俺はその時まで、榊原郁恵を見ても大して気にして

いなかったが、あらためて母に言われてみると

可愛くて元気で、確かに魅力的だ。

 

俺はそれを機に、榊原郁恵が好きになった。

 

ある日の事、母と一緒に買物に出かけ

雑貨店で「写真立て」を買った。

 

母は「写真立て」が並んでいる棚を見ながら

「どれがいい?」

・・・と俺に聞いて来た。

 

小6男子の俺にとっては、どの「写真立て」も

同じに見えたのだが、棚に並ぶ「写真立て」は

見本として当時のアイドルのブロマイド写真を

入れて飾ってあった。

 

その中に、榊原郁恵がニッコリとほほ笑んでいる

ブロマイドの入った写真立てがあった。

 

俺は

「絶対に、これがいい。」

・・・と母に言った。

 

母は

「じゃあ、これにしましょう。」

・・・と、その「写真立て」を会計に持って行った。

 

会計の店員さんは、中に入ったブロマイドを見て

「こちらは、捨てておきましょうか?」

と母に聞いた。

 

母は

「じゃあ、そうして下さい。」

と答えた。

 

俺は、すぐに横から

「あ、中の写真はそのままにしておいて。」

と店員さんに言った。

 

店員さんは

「ああボクちゃんは、郁恵ちゃんが好きなのね。」

・・・とニッコリとほほ笑んで言った。

 


翌日から母は、テレビで「榊原郁恵」を見かけると

「この子、歌もヘタだし(母の個人的見解です。)

いつも愛想笑いしてて、何だか嫌いなのよね~。」

・・・と毎回、言うようになった。

 

俺は毎回、その話を苦笑いしながら聞かされる

ハメとなった。

 

「余計な事、言わなきゃよかった。」

・・・と、思わずにいられなかった。

 

※敬称略