おんまはみんなパッパカ走る

思い起こしばなし

子供の一人ルール遊び

 

俺が20代半ばくらいの時の話だ。

 

仕事でお客さんの家を訪れたのだが、留守だった。

イカーで行っていたので、車をお客さんの

家の前に停めて、暫く帰りを待つ事にした。

 

程なくポケベルが鳴り(当時、携帯は無かった)

折り返し会社に電話を入れると、お客さんから

会社に連絡があり、用事が長引いていて

小一時間ほど、帰宅が遅れるとの事だった。

 

時計を見ると、既に約束の時間から20分は経っており

まあ、あと40分程度ならば

・・・と、そのまま車内で待っていた。

 

暫く待っていると、はるか前方から小学校低学年と

おぼしき少年が一人スタスタと、こっち方向に歩いてきた。

 

俺は何気に少年を眺めていたが

ふと少年の、ある行動が目に付いた。

 

少年は道を歩きながら、片側の壁をずっと

自分の五本の手の指で、ズルズルと触り擦りながら

歩いて来たのだ。

 

俺は少し嫌な予感がした。

 

少年が歩いて来るコチラ側の先には

俺の車が停まっている。

 

車は、少年が壁を指でズルズルと擦りながら歩いてくる

同じ側の方に、ビッチリと幅を寄せて、駐車していたのだ。

 

俺の車は、マイカーでしかも最近買ったばかりの新車だった。

 

自分が子供の頃もそうだったが、子供と言うのは

自分で一度決めて始めた事(ルール…遊び?)を

そう簡単に止めようとはしない生き物だ。

 

・石を蹴りながら、その石をずっと家まで蹴り進めて帰る。

・ずっと、影の上を歩く。又は縁石の上を歩く。

・影を踏まない。車が来たら影をジャンプ。

・横断歩道では、ずっと白い線しか踏まない。

・鉄柵で、延々と傘をカンカンさせて歩く。

・ずっと片目(ウインク)で歩く。

・溝のフタや階段を一つ飛ばし。

 

・・・こういうのを、意地になって続けようとする。

しかも誰も見ていなくても。

 

あの子供は多分きっと、殆どない壁と俺の車とのスキマに

入って来ようするだろう。

 

子供はチャックが付いたジャンパーを着ているし

ランドセルも背負っている。

 

そのまま来られては、我が新車に傷を付けられるかもしれない。

 

途中で道を変えるか、「ズルズル」に飽きてしまい

やめてくれないかなぁ・・・と様子を見ていたが

どうも、彼にはその気は一向に無いようだ。

 

ついに子供が俺の車の直前にまで、さしかかかった。

 

子供は一旦立ち止まり、若干の迷いを見せたが

また、歩き出した。

 

やはり壁と車の間に、侵入してくるようだ。

 

ブーーー!!

 

俺はクラクションを鳴らした。

 

子供は、その時まで、俺が車に乗っていたとは

気付かなかったのだろう。

凄くビックリしたような顔で、俺の方を見ていた。

 

俺は軽く、もう一度クラクションを鳴らした。

 

子供は方向転換した。

諦めたか・・・・・・と、俺が思った瞬間

子供は、俺の車のボディに「ズルズル」としだしたのだ。

 

おいおい!! 子供のする事は、もはや理解を超えている。

俺はあわてて車のドアを開けた。

 

「坊や、人の車にそんな事したらアカンよ」

少し強めの声で、少年に注意した。

 

立ち止まり、少年は俺をジッと睨んだ。

 

今時の子供には珍しく(と言っても30年以上前の出来事だが)

「青っぱな」を垂らした、「ザ・悪ガキ」

・・・っぽい、ツラがまえの「お顔」をしていた。

 

 

子供は、しばらく納得いかなそうな顔で俺を見ていたが

やがて車のボディから手を離し、そのまま車を通り過ぎて

壁へのズルズルを再開しないまま、後ろの方に歩いて去って行った。

 

少し、大人げなかったかな?

・・・俺は少し、反省した。

 

前もって少し車を動かすとか

他にも、何かやり方があったかもしれない。

 

・・・・お客さんは、まだ帰って来ない。

俺は、また車に乗り込み、お客さんに渡す書類を見ていた。

 

ふと、車体に少し何かが触る感じがして、人の気配を感じた。

 

あれっ? お客さんが帰ってきたかな?

 

・・・・・・・!!!

さっきの、ガキんちょだった!

 

俺の愛車の窓に、顔をくっつけて

鼻で直接ゴシゴシと「青っぱな」を、窓ガラスに擦り付けていた。

 

窓ごしに、俺と目が合うと

ガキんちょは、慌てて走って逃げだした。

 

俺は一瞬、ドアを開けて追いかけようとしたが

何だかバカバカしくなって

走って行く子供の背中を、ぼんやりと見送った。

 

「あー、もうっ! 客が時間通りにいないから~!!」

・・・と、俺は八つ当たり気味にボヤいて

トランクを開き、窓を拭くための雑巾を探した。。。。