おんまはみんなパッパカ走る

思い起こしばなし

お客の家で飯

 

若い頃から営業の仕事をしていて

他人の家に、お邪魔する事が多かった。

 

営業の話が長引いたり、お昼ご飯どきや夜の訪問だと

お客様のお宅で、食事をよばれた事も何回もある。

 

俺はそれが結構苦手だった。

 

 

お客様が、食事を用意していてくれる場合

事前に言ってくれていれば

「会社の方針で、お断りする事になっております。」

・・・などと、シャットアウトする事も可能だ。

 

しかし、事前にお客様からは何の前触れも無く

訪問した際に、既に食事が用意してあったりすると

お断りしては失礼になるし、不満を持たれたら

営業としてマイナスになってしまう。

 

折角用意した分を、無駄にしてしまうのもエコでは無いし

「では、折角ですから頂戴いたします。」

・・・と、なってしまう場合が殆どだ。

 

とは言え、その「お食事」がテイクアウトだとか

デリバリーであれば、さほど問題はない。

 

俺は好き嫌いは多い方だが、よくあるテイクアウトや

デリバリーの物には、比較的嫌いな商品が少ないし

例えあったとしても、お客様が直接作ってはいないので

正直に「食べられないのです。」と言い易い。

 

嫌なのは、失礼ながら家庭料理の場合だ。

 

焼魚とか、カレーライスとか、うどんとかなら

不味く作る方が難しいから、食べる方としては助かるが

親類や友達でもない「来客」に、そんな日常料理を出す家庭は

あまり、出会った事がない。

 

だいたいは奥さんとかが、少し頑張って

割と手の込んだ料理を、作ってくれている場合が多い。

 

頑張ってくれているのに、不味いと言う訳にもいかないし

(と言うか、不味いと言うのは営業として有り得ない)

料理を、大量に残す訳にもいかない。

 

あまり残せないのに、先方は「おもてなし」の精神からか

大概は、量は多めの事の方が多いものだ。

 

でもまあ、美味しければ良いじゃん!

・・・と思うだろうが、それはそれで難しい。

 

美味しい美味しいと、あまり褒めすぎると

何だかワザとらしいくて却って失礼だし

誉め言葉に気を良くした奥さんが、オカワリを勧めてくるし

美味しいからと、気を良くして食べ過ぎると

どんどん別のモノを、これもこれも・・・と

出してくれたりする。

 

先ほども書いたが、俺は好き嫌いが多い人間だ。

 

とは言え、どうしても駄目な2~3品、アレルギーのある

一部の食品を除けば、無理をすれば食べられない事はないのだが

種類が多く出て来ると、どうしても嫌いなのに

無理して食べなきゃなモノが増えて来る。

 

それが、やっぱり苦痛なのだ。

 


以前、お客様の家で夕飯をご馳走になった時に

食後に、今までに食べた事もどころか、見た事も無い

暖かく寒天っぽい汁系のデザートの様なモノが出て来た。

 

奥さんの手作りらしく、俺の目の前に

出来立てを、まず一番に最初に置いた。

 

匂いや見た目などが、どうにも俺の「苦手レーダー」に

ビンビンと訴えてくる。。。

 

取り合えず、他の人(お客様ご家族)の分が

まだ出ていなかったので、手を付けなかったのだが

奥さんが

「○○さん、お先に食べていて下さいね♪」

・・・と勧めるので、

しょうがなく、先に頂く事にした。

 

頂くと・・・

・・・(うーん、、、甘いのか辛いのかよく解らない味だ。

少なくとも、とても不味いのだけは、よく解る。。。)

 

奥さんは、期待に満ちたキラキラした眼で俺を見て

「どーですか?ウチのオリジナルなんですよ♪」

・・・とニコやかに言った。

 

「あっとー、今まで食べた事の無い味ですけど、なかなかです。」

基本的に正直者の俺は、さすがに美味しいとまでは

言えなかったが、取り合えずはホメた感じの事を言った。

 

俺がかなり無理して、やっとこさ食べ終わると

奥さんが

「オカワリもいけますよ~♪」

 

・・・とりあえず、俺は笑って誤魔化した。

 

少しして、他の人(お客様ご家族)の分のデザートも配膳された。

 

それに口を付けた途端、旦那さんが言った。

「オイッ!何やコレは!」

 

子供達が

「なにこれ~、、まっず!」

・・・と騒ぎだした。

 

・・・奥さんが味見をすると、どうも何か味付けを

間違っていたみたいなご様子。。。。

「○○さん~!ごめんなさいね~!

美味しく無かったでしょ?」

 

旦那さん(苦笑い)

「こんなの良く、全部食べましたねぇ。」

 

一応、ホメてしまった手前、実は不味かったとも言えず

俺はもう一度、笑って誤魔化したのだった。。。。