おんまはみんなパッパカ走る

思い起こしばなし

知らない神様への冒涜

昔の同僚の話である。

 

彼の方が俺より10才程年上だったが、お互いに中途採用

同じ営業職だったので、比較的仲が良かった。

 

その頃、仕事上の彼のお客様で、

新興宗教の「お偉いさん」の人がいて、彼は、その「お偉いさん」から

大変気に入られていた。

 

ある日のこと、彼は、その「お偉いさん」から集会に誘われた。

 

その集会には、その宗教の教祖様もいらっしゃるので

ぜひ彼に会って頂きたい・・・との事だった。

 

彼は俺と同じで、神にも宗教にも全く興味のないタイプだったが

その「お偉いさん」には、営業売上にかなり貢献して貰っているので

さすがに断り切れず、その集会に行く事になった。

 

集会は森の中の様な所で行われ、彼はマイカーで行った。

 


俺は後日、彼に、集会はどうだった?

・・・と尋ねた。

 

すると彼は、集会に行った時の事を話してくれた。

 

集会の会場は結構山奥だったが、まあまあ多くの人達がいて

そこでは教祖様を遠巻きに取り囲みながら、

教祖様の有難いお話(?)を皆で熱心に聞いていたそうだ。

 

また、教祖様が天を見つめて、何かモゴモゴと唱えると

不思議な事に、太陽が出て雲一つ無い天気なのにもかかわらず

少しの間だけ雨の様なものが降り出した。

・・・というような事もあったのだそうだ。

 

集会の終わり際に、彼は「お偉いさん」に教祖様を紹介され

気は進まなかったらしいが、教祖様にご挨拶をしに行った。

 

その時に教祖様から、1メートルくらいの木の板に

読めないような呪文のような文字のを書かれたモノを

直接頂いたのだそうだ。

 

彼のお客様である、「お偉いさん」はたいそう感動した様子で

「こんな事は、めったに無いありがたい事ですよ。

家で大事に飾っておくと、きっと良い事がありますよ。」

・・・と言ったそうだ。

 


俺は、そこ迄聞いて、少し笑いをこらえながら彼に尋ねた。

「じゃあ、まさか今、その板を家に飾ってるんですか?」

 

「そんな訳、無いやろっ!」

・・・と彼は言った。

 

彼は話を続け、その内容を聞いて、俺は少し驚いた。

 


彼は集会から帰る道すがら、そのままマイカーで

知人が仕事をしている工事現場に

差し入れの飲料を持って訪れた。

 

工事現場ではタイミング良く、午後3時の休憩中で

現場の人達が、寒空の中、手をかざして焚火に当たっていた。

(当時は、どこの工事現場でも大概、余ったゴミや

材木を燃やす為に焚火をしていたのだ。)

 

彼が言うには、焚火の火勢が少し弱くなったいたらしい。

 

彼はふと思い付いて、先ほど教祖様から貰った木の板を

イカーのトランクから取り出し、ヒザで4つにへし折り

焚火にくべたのだ。

 

・・・彼は笑いながら、俺にその話をした。

 

 


俺は無宗教だし、信心深くも無いので

神や仏が存在するのかどうかなんて、正直どうでもいい。


そんな俺からしても、彼の行為は、単に怖い。

祟りとか、バチが当たるとか・・・まるで信じてないけど

何か・・・怖い。

 


ちなみに、彼のその後なんだが・・・

 

1年と経たないうちに、離婚し、自己破産し

しばらくして会社にも何も言わず、ある日突然、失踪した。

 


まあ、これが「神様の罰」的なものだとは思っていないんだけどね。

 

もっと神をも恐れない酷い事をしていて

普通にぬくぬくと生活してる奴なんて、ゴマンといる訳だし・・・。


おわり