チワワのチー子
子供の頃、俺の家は母子家庭で母が夜に働いていた。
当然、夜は一人で留守番の毎日。
そのせいか、母は動物を飼う事に寛大で
色々な動物を飼っていた。
大好きなワンコも子供の頃から、常に一頭は飼っていた。
今まで飼った歴代ワンコの中で、俺に一番懐かず
俺自身、一番好きでは無かったワンコがいた。
それがチワワのチー子。
生れて初めて飼ったワンコが交通事故で亡くなり
悲しみにくれる俺に、母が人づてに貰って来てくれたワンコ。
既に2歳になっていた女の子で、とても神経質な子だった。
元の飼主の方が、一人暮らしの高齢者だったせいか
人間の子供が、大嫌いなワンコだった。
・・・つまりは、当時小学生の俺との相性がサイアクだった！
初めて会った時も、俺の前に座らされてビクビクブルブル
俺がそっと手を出すと、さっきまでは震えていたくせに
生意気にも唇を上げて「ウ～」と唸ってくる。
飼うからには早く懐いて貰おうと、チー子の「ゴハン係」は
俺の役目に。
俺がチー子の前に「ゴハン」を置くと、食べはするのだが
俺が傍で見ているのが気に食わないのか、食べながらも
「ウーッ、ウーッ」と、俺に対して唸っている。
俺も子供で、精神的に未熟（？）なので、
（なんだよ！ 俺がゴハンをあげているのに！）
・・・とムカついて
「唸りながら食うなら、もう食うなっ！」
・・・と、食器を取り上げるフリをして手を出すと
「ガウッガウッ！」って怒りながら、噛みつくそぶりを見せる。
俺は更にムカついて、負けずに応戦！！
食器がひっくり返って大騒ぎ！！
・・・で、次のゴハンの時も唸られる。
今、考えると当たり前か。（笑）
チー子は、家に母が居る時には俺の傍には殆ど
寄り付かないのだが、基本的には寂しがりやで
短毛のせいか寒がりなので、俺とチー子が二人きりの時や
寒い時期には、気が付くと俺の傍に寄り添っていた。
そんな時も、俺が調子に乗って撫でたり触ったりすると
とたんに、「ウ～ッ、ウ～ッ」と唸り声。
体を撫でる度に唸るので、イビキみたいで面白くて
ついつい、しつこく撫で続けていると、最後には
「ガウッ！！」と一声吠えて、別の場所に逃げて行く。
チー子は生涯、芸を覚えてくれなかった。
お手も、お座りも何回教えても、一切やらなかった。
教えている時は、イジメられていると思っていたみたいで
涙目になっていた。
チー子は、散歩が大っ嫌い。
散歩に連れて行こうとすると、ベッドの下に隠れる。
ひっ捕まえて、リードを付けても、足を踏ん張って
イヤヨイヤヨと大綱引き大会。
それでも俺は無理やりにチー子を外に連れ出す。
で、当然チー子は外に出ると、全く動かなくなる・・・
・・・と、誰もがきっと思うことだろう。
でも違うのだ！
チー子は外に出ると一目散に走り出す。
なぜか？
それは、俺がいつもの散歩コースを周らないと
絶対に家に帰らない事を、知っているからだ。
だから、とにかく帰りたい一心で散歩コースを
チー子は、ひたすらに走る！
俺のリードを引っ張って走る。
チー子は、電柱なんかで止まらない。
チー子は、外でオシッコなんてしやしない。
チー子は、他のワンコのウンチや、落ちている
お菓子なんかには、目もくれない。
道で鼻を近づけて臭いをクンクンなんかも、殆どしない。
とにかく一目散に走る。
それが、散歩が大っ嫌いで、少しでも早く家に帰りたい
チー子の「散歩」なのだ。
このようにチー子は散歩が大っ嫌い。
でも寂しがりやなので、留守番も大っ嫌い。
・・・なので、外出専用の籐のカゴを出すと
この時だけは、素直に自分から進んで入ってくる。
自分で歩かなくても良い外出は、結構好きなのだ。
チー子は、お風呂も大っ嫌い！
入れたら鳴き叫んで、何回も咬まれた。
チー子は、お手入れも大っ嫌い！
短毛種なので手間いらずだったが
爪を切らせてくれないのに閉口。
散歩もしないので、爪はすり減る事もなく
いつも鷹のように伸びていた。
チー子は、子供が大っ嫌い！
親戚の同世代の子や、友達が遊びに来た時には
ベッドの下から一切出て来ず。。。
下手に手を出せば噛まれるから、注意！！
チー子は、ジキルとハイド。
チー子は、見た目は可愛くて愛くるしい。
俺が抱っこして歩いていると、いつも
通りすがりの人が、見つけて寄って来て
「かわいいね～、触らせて～っ♪」
・・・などと言い寄ってくる。
しかし、他人がチー子の体に手を出そうものなら
とたんに、目をひんむいて・・・額にシワを寄せて・・・
鼻先（マズル）にもシワを寄せて・・・
唇をせりあげて・・・キバをむき出しにして・・・
まるで、エイリアンの形相・・・・。
そんな、チー子。
当時、あんまり可愛く思っていなかったのに
なぜだろうか？
今になって、他の子よりも良く思い出す。。。
天国は、きっと暖かいよね？
